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社会復帰に向けた新しい道:血管の中から脳動脈瘤を治療

血管内からの脳動脈瘤治療は、治療に伴う危険と医療費を削減し、よりよい結果をもたらします。

トレーシー・ベイリー・ゲイツは、 12歳の時から偏頭痛を含む頭痛に悩まされてきました。しかし、 1996年に救命救急室に運ばれた時の頭痛はいつもと違いました。頭痛によりベイリー・ゲイツは嘔吐し、激痛は頸部にまで広がりました。救命救急室では片頭痛の再発として治療しましたが、当時 34歳のベイリー・ゲイツはそうではないことに気づき、詳しく検査をしてくれる神経内科医を探しました。

ベイリー・ゲイツが探し当てた神経内科医は、磁気共鳴像( MRI )を含めたいくつかの検査を行いました。 MRIは、身体内部の臓器および構造物の画像を得るために磁場およびラジオ波エネルギーのパルスを利用する検査です。最初の MRI 検査では明らかな異常所見はありませんでしたが、脳実質に傷がある可能性があると神経内科医は考え、再検査をすることにしました。 2回目の MRI検査の後、神経内科医は仕事中のベイリー・ゲイツに電話をかけ、自分のオフィスに来るようにと言いました。彼は、その理由を電話では説明しようとはしませんでした。

「これが正しいわけがない。」

ベイリー・ゲイツは夫に電話をかけ、神経内科医のオフィスで落ち合うことにしました。「医師は私に席をすすめ、片方の内頚動脈と眼動脈分岐部に動脈瘤があることを告げました。」とベイリー・ゲイツは述べています。彼女は、ロード・アイランドのハリスビルにあるスミスフィールド中学校で生理学の教師をしており、事の重大さをすぐに悟りました。

臨床的に何を意味するかを理解しているにもかかわらず、あるいは理解しているがゆえに、ベイリー・ゲイツはそれでも自分の置かれている状況を否定していました。「私は最初、『これが正しいわけがない。明日は、 6歳の息子のサッカーの試合のコーチをしないといけないのだ。』とばかり考えていました。」その時、ベイリー・ゲイツにはもう 2人( 5歳と 3歳)の息子がいました。

脳動脈瘤とは、動脈の壁の脆弱な部分が、全方向にあるいは一方向に膨隆したものです。動脈瘤が破裂すると、出血が脳周囲に広がり、脳の損傷、麻痺、昏睡もしくは死をもたらします。

医師たちがベイリー・ゲイツの脳で見つけた動脈瘤は、破裂はしていませんでしたが、別の問題がありました。動脈瘤は視覚をコントロールする脳の部位に血流を運ぶ血管の合流部に存在しており、それは脳に血液を運ぶ主血管の一つでした。重要部位に存在する脳動脈瘤の治療は非常に困難な治療です。

ベイリー・ゲイツはすぐに入院し、たくさんの検査を受けました。「脳動脈瘤は治療が難しい場所にあったので、正確な状態把握のために CT、超音波、血管造影検査など、医師たちは考え得るあらゆる検査を行いました。」とベイリー・ゲイツは述べています。

検査が終わった後、医師たちは脳動脈瘤に到達する従来の侵襲的な治療を選択しました。「医師たちは頭蓋骨の一部を取り外し、脳を少し持ち上げ、精巧な髪留めのような金属製のクリップで動脈瘤の頸部を挟むという従来のクリッピング術により脳動脈瘤の治療をすることに決めました。」とベイリー・ゲイツは述べています。

開頭手術へ向けて準備が行われ、抗けいれん薬も服用し始めました。ベイリー・ゲイツは心の中で、危険で侵襲度の高い手術に対して覚悟を決めていました。「最も気がかりなことは、後遺症が出現しないかということでした。私は一日中顕微鏡を覗いたり、子供達を教えたりしています。ひょっとしたら身体の片側が麻痺したり、片方の目が見えなくなったりする危険性があるのではないかと考えました。生活の質についてはいうまでもありません。私には 3人の小さな子供と夫がいるのですから。」と彼女は述べています。

計画変更

手術の直前、神経外科医は別の方法を試してみることを提案しました。「コイル塞栓術と呼ばれる全く新しい手技であり、私がそれにぴったりの候補者であると脳神経外科医は考えたのです。」

コイル塞栓術は、患者の大腿部の付け根の皮膚切開部から細いカテーテルを挿入し、脳動脈瘤のある血管まで導くことで術者が動脈瘤にアクセスできます。術者はガイドワイヤーを用いてカテーテルを動脈瘤内に誘導し、プラチナ製コイルを動脈瘤内に送り込みます。ベイリー・ゲイツの場合、術者は動脈瘤内に数種類のコイルを使用しました。「これらのコイルが互いにからみ合い、その周囲に血液塊ができ、血栓を形成するのです。この方法は、私の頭を開けるという不安を打ち消してくれました。」と彼女は説明します。

2時間の治療の後、ベイリー・ゲイツは約 24 時間、集中治療室に入りました。彼女は 4日後に退院し、手術後ちょうど 3週間でパートタイムの教師の仕事に復帰できました。

ベイリー・ゲイツは、コイル塞栓術を受けることができて非常に幸運だったと考えています。なぜなら、この治療方法は彼女の動脈瘤が発見されたちょうど 1 年前に FDA (米国食品医薬品局)の承認を得たばかりだったのです。「ロード・アイランド郡立病院のスタッフには、リチャード・ハース医師がいました。リチャードは当時、コイル塞栓術の資格を持つ数少ない医師の一人でした。」と彼女は述べています。

もしクリッピング術が施行されていたら、その動脈瘤の存在部位ゆえにベイリー・ゲイツは永続的な障害を被る可能性が高かったと思われます。

選り抜きの治療法

未破裂動脈瘤の潜在的患者は 1800万人に達するとみられ、毎年 3万人以上のアメリカ人が破裂脳動脈瘤を発症します1。血管内コイル塞栓術は比較的新しい治療方法であるため、動脈瘤が血管内治療(コイル塞栓術)もしくは開頭手術(クリッピング術)のどちらの治療法にも適している場合には、血管内治療(コイル塞栓術)が選択されることが急速に増えてきています。

その理由に多くの秘密はありません。コイル塞栓術は、これら数万人の患者にもベイリー・ゲイツと同様に利点があります。つまり、高い成功率と短い回復時間とともに、より低侵襲で、より危険度が少なく、かかる医療費も少ないのです。

60の大学病院における、2500症例以上の未破裂動脈瘤の研究では、コイル塞栓術に比べて、外科的クリッピング術は入院中の死亡率が 5倍であり、合併症の発生率も 80%以上高くなっていました2。コイル塞栓術では入院期間も、4.6日対 9.6日とより短い結果となり、かかる医療費も、30,000ドル対 43,000 ドルとより少ないものとなりました3

手術合併症での症状や障害からの回復時間については、コイル塞栓術で劇的に少ないとするデータもあります。120人以上の未破裂動脈瘤患者のフォローアップを含めた研究では、手術症例では平均して 1年間の回復時間を要するのに対し、血管内治療を受けた患者では 27日間でした4。脳動脈瘤が最も発症しやすい年齢層を 35歳から 60歳とすれば、すばやい回復がもとめられています5

2002年 10月、医学ジャーナル、Lancet誌に掲載された研究では、クリッピング術あるいはコイル塞栓術のどちらでも同等の適応があると考えられる脳動脈瘤患者において、コイル塞栓術の方がより良い成績を収めました。術後 1 年間経過時点では、コイル塞栓術を受けた患者の死亡あるいは重篤な障害発生の相対的危険率が、クリッピング術に比べて 22.6%少なくなっていました6

その試験の初期の結果が充分納得のいくものであったため、本試験の治験責任者らは、予定していた 2500 人の患者のうち 2145 人が登録された時点で、患者の募集を中止しています。その理由は、外科的クリッピング術で患者を治療し続けることが非倫理的であると考えられたからです7

近年、科学技術の発達により医師が血管内治療(コイル塞栓術)をより安全に施行できるようになってきています。医師がカテーテルおよびコイルを動脈瘤内に導く際に、患者の血管をより鮮明に視覚化する助けとなるリアルタイムX線装置を使用することができるようになっています。

コイル塞栓術を施行できる医師が次第に増え、それに伴って治療方法を選択する患者が増えているという事実は、病院、保険支払基金、医師にとって良いニュースです。しかし、最も重大な効果は、ベイリー・ゲイツのように患者本人を含む周囲の人々に現れています。

1996年のコイル手技施行の後、ベイリー・ゲイツは早い社会復帰のおかげでフルタイムの教師の仕事に復帰し、教室での彼女の努力に対し 3つの賞を受賞しました。その中には、最も優れた生物学教師に与えられる 2001年のロード・アイランド州賞が含まれています。

1Stroke and aneurysm fact sheet, Boston Scientific

2Johnson, SC, Surgical and endovascular treatment of unruptured cerebral aneurysms at university hospitals.
Neurology 1999; 52: 1799-1805 (from BSCI Target background sheet)

3Johnson, SC, Surgical and endovascular treatment of unruptured cerebral aneurysms at university hospitals.
Neurology 1999; 52: 1799-1805

4Johnston, SC, et. al., Endovascular and surgical treatment of unruptured aneurysms: Comparison of risks.
Annals of Neurology, 2000; 48: 11-19

5Johnston, SC, Surgical and endovascular treatment of unruptured cerebral aneurysms at university hospitals.
Neurology 1999; 52: 1799-1805.

6The Lancet, October 26, 2002, Vol. 360, No. 9342, p.1271

7The Lancet, October 26, 2002, Vol. 360, No. 9342, p.1270